みなし相続財産を理解していないことによって、起きた争族の事例をご紹介したいと思います。
82歳になるAさんは、生きているうちに相続の準備をしておきたいと考え、長男には保険金、離婚して実家に戻ってきた長女には、自宅不動産(家と土地)を相続させる遺言書を用意しました。ところがAさんが天寿を全うした後、Aさんの長男と長女の間に遺産を巡る紛争が起こり、とうとう法廷で争われることになったのです。
長男の保険金は、相続財産ではない!?
生命保険には節税の効果があると言われ、Aさんが自分にかけた生命保険は、受取人が長男になっていました。確かに、生命保険には非課税枠が認められています。
「500万円×法定相続人の数」の計算をしますから、このケースでは1,000万円が非課税となります。受け取った生命保険が3,000万円なら、その内1,000万円は非課税となります。
Aさんはそういうことをしっかりと理解していましたが、実は肝心なことを理解していませんでした。節税や非課税ということに注意が向き過ぎて、相続財産は何かという理解が欠けていたのです。
今回のケース、Aさんの長男の受け取った生命保険は、Aさんの相続財産ではないのです。何をバカなことを言ってるんだ、という声が聞こえて来そうですね。相続税の課税・非課税という話をしているのだから、相続財産に決まっているではないかと。はい、長男が受け取った生命保険は相続税の対象とはなります。しかし相続財産としてではなく、「みなし相続財産」だから相続税の計算対象となるのです。そして、Aさんの長男と長女の争いは、相続財産の分割をめぐる争いなのです。
みなし相続財産とは何か?
Aさんの長男は、「自分にも相続財産をもらえる権利がある」と訴えています。
Aさんの書いた遺言書によると、すべての相続財産(自宅不動産)は長女一人のものになっているので、長男は遺留分を主張して、不動産価値の四分の一に相当する現金を長女に要求しています。
Aさんは、保険金を長男が受け取るから問題ないと思っていたのですが、その保険金は長男のものです。Aさんの財産ではないのです。しかし、相続税の計算をするときには、相続財産とみなして、相続税を計算しなさいというのが、相続税法という法律です。
被相続人(故人)が亡くなったとき、被相続人(故人)のものではなかったけれど、被相続人(故人)の死亡を原因として相続人がもらえる財産を「みなし相続財産」といいます(相続税法第三条)。
つまり、Aさんのものではないけれど、Aさんの死が原因で長男がもらった保険金は、みなし相続財産なのです。簡単に言ってしまえば、相続財産ではないけれど、相続税を計算するときには相続財産に含めて計算して、少しでも多く税金を払ってね、という制度ということです。生命保険以外にも、みなし相続財産はありますから、ご紹介しましょう。
みなし相続財産になるもの
①生命保険金
②死亡退職金
③被相続人が死亡する前の3年間で贈与した財産
④常識を超える弔慰金
⑤特別縁故者への分与財産
以上の5つを知っておけば、まず問題はありません。しかし場合によっては、低額で贈与された財産等も時価との差額が、相続時にみなし相続財産となることもあります。
相続自体と相続税の問題は別なのだということを、理解しておくことが大切です。そこを理解していないと、ご紹介したケースのような問題が生じます。
さらには、相続財産は遺産分割協議の対象となりますが、みなし相続財産は遺産分割協議の対象にはならないということです。それにも関わらず、遺産分割協議の対象としてしまうと、相続税の他に、相続人から別の相続人への贈与税の問題にまで発展しかねませんので、迷ったときは専門家に確認することをお勧めします。
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