相続対策の失敗例:孫を養子とした場合の落とし穴

税理士コラム:税 相続 相続対策 失敗例

相続対策の失敗例として、孫を養子とした場合の落とし穴について今回ご紹介したいと思います。

1.概要

資産家の被相続人には、実子が1名、孫が1名おり、配偶者はすでに他界しています。

被相続人は、相続対策として相続財産を減少させるために、孫に対し毎年110万円ずつ贈与し、かつ孫を養子として相続税の基礎控除を増やすことでさらに相続税の圧縮をしようとしました。そして、贈与を5年間継続した時点で、相続が発生しました。

2.結末

しかし、相続が開始されると、孫に対する贈与のうち、相続開始3年以内の贈与が加算され、孫には相続税額の2割加算が課されました。孫に対する贈与は、他の相続人に対する遺留分を侵害しているとして、他の相続人から遺留分減殺請求がなされています。

3.解説

(ア)相続開始3年前の贈与加算

相続開始の3年前の贈与は、相続税の計算における課税価格に算入されます。

そして、贈与の額を加算することから、贈与税の基礎控除(110万円)以下の金額であり、贈与税がかからないとされる贈与であっても全額が加算されることになります。他方、相続税は、相続又は遺贈により取得した各人の財産を合計して相続税の課税価格を算出することになり、その各人の相続又は遺贈により取得した財産の計算上で、3年以内贈与を加算することになるのです。したがって、相続開始前3年以内の贈与が加算されるのは、相続又は遺贈により財産を取得した者に限られるのです。

本事例においては、孫が養子となってしまった時点で、相続人となり、相続又は遺贈により財産を取得した者となっていたといえるでしょう。

では、仮に孫が養子にならなかった場合はどうでしょうか。

この場合には、相続開始3年前の贈与加算の要件である相続又は遺贈により財産を取得していないので、相続開始3年前の贈与は加算されないことになります。したがって、本例でいえば孫が遺贈により財産を取得しない限りは、孫が受けた相続開始3年前の贈与が相続財産に加算されることはありません。

なお、みなし相続財産といって被相続人が保険料を支払っている保険の保険金を孫が受領したような場合には、遺贈により財産を取得したものとみなされて、相続開始3年前の贈与が加算されることになることのご注意ください。

(イ)相続税の2割加算

この制度は、配偶者又は被相続人の一親等内の親族以外の者が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、取得した財産に係る相続税に額に2割を加算するという制度です。

そして、被相続人の孫が養子となるようないわゆる孫養子の場合は、被相続人は孫と二親等内の親族になりますので、孫には2割加算がされることになります。ただ、孫養子の方法を2割加算のデメリットがあるからといって否定することは早計であると考えます。なぜなら、孫養子の方法は相続を一世代飛ばした相続財産の承継方法だからです。被相続人から孫までの財産の承継は通常は2回の相続が必要です。

これを1回で承継させることで相続税を圧縮することのみならず、円滑な財産の承継が図られるメリットは、捨てがたいものといえるでしょう。この制度も具体的場面で有効かをシミュレートする必要があります。

(ウ)遺留分と遺留分殺請求

最後に、遺留分と遺留分減殺請求です。遺留分とは民法が兄弟姉妹以外の法定相続人に認めた相続財産からこれらの相続人が最低限取得できる相続分のことです。

そして、贈与又は遺贈により遺留分を侵害された相続人は、贈与又は遺贈の減殺を請求できることになります。減殺請求できる対象は遺贈と相続開始1年前になされた贈与です(贈与者と受贈者の双方が遺留分を有する者に損害を加えることを知ってなされた場合には1年を超える贈与も含まれます。)。


本例においては、孫に贈与を開始する前に他の相続人の遺留分額を考慮にいれなかったことが失敗でした。そのためには、被相続人の相続財産総額を正確につかむ必要があります。

なぜなら遺留分の計算は、相続財産から相続債務を控除した額に遺留分を有する者の法定相続分に遺留分割合(相続人が親などの直系尊属のみの場合であれば3分の1、これに以外の場合は2分の1)を乗じた金額となるからです。したがって、失敗の根本は、被相続人の財産がいくらあるのかをつかんでいなかったことともいえるでしょう。

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