相続税は原則として、財産を相続したものは必ず支払わなければなりません。そのため、巨額の資産を有する多くの人が相続税対策を行うのです。しかしながら、それらの中にあって、一見すると非常に便利な制度と思われるものが相続税の配偶者控除です。
相続税の配偶者控除
相続税の配偶者控除とは、被相続人の配偶者が相続により財産を取得した場合、一定額の相続税であれば支払わなくて良いというものです。具体的には、配偶者は以下の2つの金額のうち、どちらか多い金額までは相続税を支払う必要がありません。
(1)1億6,000万円の財産の取得にかかる相続税
(2)配偶者の法定相続分相当額までの財産の取得にかかる相続税
つまり、相続財産が1億6,000万円を超えない場合は、配偶者は原則として相続税を支払う必要がないのです。これは被相続人の人生の伴侶である配偶者を優遇する措置となっています。しかし、この制度があることで安心し、配偶者控除の利用以外の相続税対策を考えていない場合、後でしっぺ返しを食う恐れがあります。以下では、配偶者控除に甘えてしまった結果起こる相続税対策の失敗例についてみていきましょう。
事例
Aさんは70歳であり、不動産、株式などで合計1億円の相続財産を有している。Aさんには、妻のBさんと一人息子のCさんがいる。Aさんは自らの死後にBさんとCさんが支払う相続税をなるべく小さな額としたいと考えていたが、相続税にかかる配偶者控除の制度を知り、相続財産1億円をすべてBさんに相続させることで、相続税を0円にしようと考えていた。具体的には、Cさんに相続放棄をさせて、その結果としてBさんにすべての財産を相続させることとしたのである。
以下、上記事例の落とし穴について解説します。はじめに、相続放棄は相続人が相続に際して選択することができる3つの相続方法のうちの1つです。相続放棄をした相続人は、はじめから相続人でなかったものとみなされることになります。つまり、上記事例において、Cさんが相続放棄をすると、相続人はAさんの妻であるBさんのみとみなされ、Aさんの相続財産1億円すべてがBさんに相続されるのです。
そして、上述した配偶者控除の制度があるため、BさんがAさんの相続財産1億円を相続しても、相続税を支払う必要はありません。そのため、上記事例は一見すると、最小限の行為で相続税対策を完璧になしたように思えます。しかし、この相続税対策はあくまで一時的なものに過ぎないのです。
それは、いずれBさんが亡くなった際に、次はBさんからCさんへの相続がなされ、その際にBさんの息子であるCさんは相続税に架かる配偶者控除を受けることができないためです。つまり、上記事例において、Aさんの死後、BさんがAさんから相続した1億円を息子のために手を付けずに保管しておき、Bさんが亡くなった場合、Cさんは相続財産1億円についての相続税を丸々支払う必要があるのです。
例えば、Aさんの死亡時に法定相続分に従ってBさんとCさんに5,000万円ずつ相続を行っていた場合であれば、Cさんが支払うべき相続税は5,000万円についてのもののみでした。それが、Aさんが一度すべての相続財産をBさんに相続させたことにより、最終的にCさんが支払う相続税が大きな額になってしまうのです。
このように一見すると非常に優れた制度と思える相続税の配偶者控除ですが、相続人が配偶者のみの場合以外には注意が必要となります。最終的に子に多額の相続税を支払わせることとならないためにも、配偶者控除の制度以外を使った相続税対策に早めに着手しておきましょう。